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2022.10.04 更新コラム

「精神科シンプトマトロジー -症状学入門- 心の形をどうとらえ、どう理解するか」を読んで

「精神科シンプトマトロジー -症状学入門- 心の形をどうとらえ、どう理解するか」を読んで

 水戸の臨床心理部では今年度、茨城大学大学院人文科学専攻公認心理師コース1年生の実習を受け入れています。3人の実習生がそれぞれ10日間の日程で訪れており、現在は二人目の方が実習を行っている最中です。

実習生たちはほとんど精神科医療に触れたことのない状態ですが、実習の最後には予診を実施できるようになることが目標とされています。そのため、学生たちは大学が教科書として指定している笠原嘉先生の「精神科における予診・初診・初期治療(星和書店 2007年)」を予め読み、レポートにまとめた上で、実習に臨んでいます。

 今回、初めて実習生を受け入れるにあたり、私自身も基礎的なところを振り返りたいと思って手に取ったのが、「精神科シンプトマトロジー -症状学入門- 心の形をどうとらえ、どう理解するか 編集 内海健 兼本浩祐 医学書院(2021)」でした。この本は「総論」と「各論」の二章に分かれており、編者の他に15人の先生方が各章の執筆を担当されています。その中には北参道こころの診療所にご勤務されている藤山直樹先生、池田暁史先生もいらっしゃいます。総論ではDSMに代表される操作的診断全盛の時代で、なぜ今、症候学なのか、今だからこそ症候学が重要である意味について丁寧に論じられています。症状とは何か、症状を知るためには治療における関係性がどのような点から大切と言えるか、治療者の態度はどんなものであるか、治療関係の中に現れる症状という視点、精神医学における意識や了解と診断の関係など、症状の概念から実際の臨床的な姿まで、基本的なことがコンパクトながらも厚みをもってまとめられています。そして、各論は52の項目について、各領域の専門家が解説している用語集となっています。妄想や抑うつ気分、適応障害などの馴染みの言葉から、転移やナルシシズムなどの精神分析用語まで、幅広く選出されています。

 心理士は学部・大学院の教育課程の中で、ごく僅かしか医学的なことを学んでこないため、医学的な知識が少ない中で、実際に働く場所としては精神科病院や心療内科クリニック、総合病院などが選ばれることが多く、そうでなくとも「症状」と無縁ではいられないでしょう。この本は心理職を目指す学生にとっては、診断の元となる「症状」について、症状学という視点の大切さを知るとともに、知識として身に付けやすく、分かりやすい入門書になると感じました。また、既に心理士として働いている私にとっては、日々の面接や患者様との出会いを振り返り、これからも読み返したいと感じる本でした。総論において、藤山先生は「精神医学的な『症状』は決して客観的な事実ではない。それどころか、それは患者と精神科医のパーソナルな体験の交錯、2人の主体のあいだの交流から生み出される間主体的構築物である」「精神科医も患者も人間である以上、欲望や歴史といったものと無関係にその場にいることはできない。『症状』もまた、人間としての患者のあり方の一部である以上、2人の主体の欲望や歴史と無関係に、純粋な客観的事実として存在することはあり得ない」と書かれています。以前レビューした「当事者としての治療者(富樫、2022)」とも共通する言葉のように感じました。客観的であること、それがいかに難しく、なしえ難いことであるかということを知り、謙虚な態度で、主体としての自分を認識し続けていく、そんな心理士でありたいと思います。

 また、この本については、初学者が手に取ることができ、その先もずっと手元に置いておきたい基本的な本として、笠原先生のご著書と並んでクリニック実習の教科書としても推薦したいと思います。

●精神科シンプトマトロジー -症状学入門- 心の形をどうとらえ、どう理解するか 編集 内海健 兼本浩祐 医学書院(2021)

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臨床心理士 島田祥子

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