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2023.11.07 更新レポート

日本精神分析学会第69回大会に参加しました

日本精神分析学会第69回大会に参加しました

日程:2023年11月3日〜5日
会場:広島国際会議場・広島市文化交流会館
シンポジウムテーマ:陰性治療反応


 「陰性治療反応 negative therapeutic reaction」は、精神分析固有の用語です。1923年、フロイトが初めて用いてから、今大会はちょうど100年となります。陰性治療反応とは、ざっくり言うと、治療が進展しているにもかかわらず、患者の状態が悪化する状態のことです。治療が進展しているのに、患者が悪化するとは矛盾した状態のように思います。しかし、精神分析に限らず、心理療法の後に患者の状態が一時的に悪化することがあるということを知っている心理士は多いでしょう。精神分析では、これを転移や解釈の文脈から理解します。そして、これが患者の病理から生じたものであるとする考え方と治療の失敗や不適切な介入など、治療者側の問題から生じたものであるとする考え方の主に二つの見方があります。陰性治療反応は多重にパラドキシカルなものを含んでいるようです。

 多職種連携が当たり前になっている医療の中で、陰性治療反応は心理士を孤独に追いやる場合があります。心理療法を受けた患者の病状が悪くなるため当然のことかもしれません。直接的・間接的に責められたり、不満を持たれることがあるでしょう。そのような苦しい状況で、心理士がどのように持ちこたえ、生き延びるかということが、心理士個人の問題ではなく、心理療法全体に関わり、患者ー治療者間にも影響を与えます。そしてこのような大きな動きが、患者個人の心の問題に還元されていくという見方は精神分析に固有のものであり、精神分析のもつ面白さと感じます。

 一口に精神分析と言っても、さまざまな学派があり、学派ごとに用語の意味が多少違っていたりする点は、精神分析を難しくする要因の一つかもしれません。論争の火種になり、決別に至る場合もあります。しかし、より深い理解につながったり、理解を進展させる機会でもあります。学会のシンポジウムなどは、そのように学派を超えた議論がなされる格好の場と言えます。

 学会は、ケースセミナー、教育研修セミナー、研修症例、一般演題、学会企画などからなります。私は今回は主に、研修症例と一般演題に参加しました。また、能動的に参加し、大会参加が自分の糧となるように、各セッションでできる限り質問や感想を発表することを自らのタスクとしました。「良くなる」とはどういうことか、「悪くなる」ことにどのような意味があるのかなど、たくさんの症例に触れて、治療の中で起きている関係性の質の変化について考える機会となりました。

 精神分析や精神分析的心理療法はしばしば個別的すぎる点が批判されます。エビデンスの問題などはまさにその1つです。しかしながら、目の前で起きていることだけでなく、紆余曲折を経てそこに至る心の動きを想定し、患者ー治療者間を主体として、取り巻く環境や生育歴、人間関係などの全てを総動員して考える姿勢は、1人の人の人生を考えるためには必須の個別性であり、精神分析の魅力的な部分だと感じます。また、先述のように個別性を考えるために、視野を広く保っておく必要があります。自分が開かれた状態で面接を進めるために、さまざまな訓練が必要です。学会参加を通して、改めて、自分自身の訓練の必要性・重要性を感じました。そう言いながら、何もせずにあっという間に1年が過ぎてしまわぬよう、目下としては学会での演題提出を目標にして訓練を重ねていきたいと思います。

なお、学会では北参道こころの診療所の先生方が多くご登壇されておられました。ご登壇された先生方、お疲れ様でした。

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臨床心理士 島田 祥子

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